本の紹介:004 「私の生活流儀」本多静六

きままに読書

「尊敬する人は誰か」と聞かれると、たくさん思い浮かぶような、でも一人に絞るのは難しい。けれど「人生に影響を受けた人」を挙げるなら、本多静六さんがその一人だと思う。

彼の著書は、専門分野にとどまらず、人生設計・資産形成・日常生活の知恵まで多岐にわたる。私も何冊か読んだ中で、最も感銘を受けたのが『私の生活流儀』だった。

「人生とか生命とかについて、本書は別に、深淵な哲理を説いてはいない。また私自身がそうしたものを説く柄(がら)でもない。……しかし、私は、われわれの小さな日常生活の心掛けのうちに、大宇宙の生命に通じ、神ホトケの摂理にかなうものがあるを信じ……日常こそ、平凡こそ、実は 我々に最も大切な人生のすべてなのだ。

……とまあ、冒頭からガツンとやられてしまう。

このコンパクトな一冊には名言や人生の知恵が散りばめられていて、どこを取り上げてもキリがない。何度も読み返し、そのたびに新しい発見がある。

本多さんの生活へのまなざしは、つねに合理的で、無駄がない。そしてブレない。
たとえば――
トイレの紙は新聞を柔らかくして使い、来客用だけ良い紙を用意する。靴下や下着はつぎはぎしながら使い続ける。買い物に行っても「買ったつもり」で帰る。庭の鑑賞は公園に任せ、家庭菜園にこそ趣があるという。家を建てるときも、将来貸し出すことを見越して二階にも水回りを整えるべし、という具合に、暮らしに根ざした具体的な知恵が満載だ。

世間体や流行に流されず、自分の価値観で整えられた生活。そこには、暮らしの隅々まで行き届いた独自の流儀があって、とても面白い。

「すべての生活改善は、まず住宅改善から。
我々日本人の身辺には、あまりに用もないガラクタが多過ぎる。…このガラクタを思い切って追放し、できるかぎり整理しなければ、われわれの日常生活はすっきりしてこないのである。」

「いかなる苦痛も、これを耐え忍びさえすれば、たちまちそこに楽地を発見する。…苦も、楽も、喜びも、悲しみも、ユーモアでふんわり包むのだから 面白いのである。」

本多静六という人物の思想や知恵に、ほんの少しでも触れて実践した人と、まったく知らずに生きた人とでは、人生の後半にきっと大きな差が生まれてくるのではないか、と私は思う。


★『私の生活流儀』と同じくらい濃密で、何度も読み返したくなる『私の財産告白』もおすすめです!

 


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